ビジネスモデルオリンピア2018で講演しました

「循環とダイナミズム」をテーマに、ビジネスモデルの構造と自己組織化のプロセスを解き明かしました。

· 講演
broken image

ビジネスモデルイノベーション協会(BMIA)が主催する「ビジネスモデルオリンピア2018」。BMIA代表理事でもある小山がこれからのビジネスモデルキャンバスとの向き合い方について「循環とダイナミズム」というテーマを切り口に語った。

 

ビジネスモデル構造を描くビジネスモデル・キャンバス

 

これまでBMIAでは、ビジネスモデルキャンバスを用いて、哲学者レヴィ=ストロースが言うところの「主体ではなく、主体間の構造こそが重要」といういわゆる構造主義的な観点でビジネスを捉えてきた。価値がそのまま存在するという実存主義的な立場を超え、顧客に認められて初めて価値になる。また、価値がどのように形成されていくかという視点を重視してきたが、小山は、構造主義の考えをさらに超越した視点で捉えるビジネスモデルキャンバスの可能性を感じている。

 

小山は講演を振り返り、複数のスピーカーらが実践してきた「野生の思考」に注目する。野生、すなわちプリコラージュの思考は「今ここにあるものを使う」ことで新しい価値を創造するというものだ。先のストロースの言葉に「目の前のものに対して別の関係性を見つけ出し、再構成して異なる意味を与える」というものがある。いま価値を持っていなくても、別の関係性の中では新しい価値を創造しうる可能性があるということだ。そして、別の関係性を見つけて再構成するには世の中の変化に合わせて視点を変化させること重要だと小山は語る。

 

イレギュラーなものから自己組織化が始まる

 

さらに、世間一般に「イレギュラー」と言われているものが既存の仕組みを変え、関係性を変えていけるヒントになると主張する。これまでは、ビジネスモデルキャンバスに沿って多くのアイデアを整理してきたが、むしろこの枠組みからはみ出るような、意味をつけられないようなものにこそポテンシャルが秘められていると指摘する。それを見い出し、新しい構造の中で価値を生んでいくことこそが、これから必要だと語った。

 

では、体系の中に組み込まれないものに価値をつけるための循環はどのように生まれるのだろうか。まずビジネスの要素を還元して分析し、次にストーリーとして構造化し、その後、自己差異化してい日々更新していくというのがこれまでの考え方だった。しかし、ここには限界がある。更新されるのはあくまで既存の枠組みの中においてのみであり、そこに新しい価値やイレギュラーは生まれないのだ。そこで、体系に組み込まれていないものが新しい構造を作る時に存在する「アトラクター=見えざる手」について言及する。

 

因果から縁起へ

 

大きな物語の支流にある要素が新しい構造を作る時、因果律にとらわれてはいけないという。何が原因でどのような結果を生むかーこうした考え方はビジネスの基本ではあるが、実際のところ因果は一つのベクトルでのみ構成されているのではなく、さまざまな縁つまり要素が関係して結果となっていると小山は語る。そして、その縁こそが既存の構造に変化をもたらし、再構造化する重要なエッセンスとなる。つまり、この想定外の要素をフレキシブルに活用することが求められているのだ。

 

しかし、新しい構造を生み、新しい循環を生んだところで、それが必ずしも良い循環とならないケースのことも考えるべきだろう。仮に悪循環に陥ってしまった場合、脱出できるキーとなるのが「ハウ」という存在だ。ハウとは精霊のような存在で、自己でも他者でもない第三の存在だ。このハウが関係性の中に存在することで、自分のためでも相手のためでもない「第三者のためのアクション」が促され、結果的に双方にとっても益がでるような循環が生まれる。仮に競合AとBが存在するとして、自己のためのみに行動する場合はいわゆる「囚人のジレンマ」状態に陥り、双方に益がない悪循環を生んでしまう。だがここに第三の存在が介入することで、ライバル関係を超越して新しい価値を創造し、結果的に双方に益となる結果をもたらすことができるという。

 

構造をメタな視点でデザインする

 

「ハウ」という存在をデザインすることが、良い循環を生むためのヒントとなるだろうと小山は語る。これからビジネスモデルキャンバスを考える際は、顧客や因果だけに注目するのでは、キャンバス全体を超越的に俯瞰するこの存在を意識していくべきだ。「見えざる誰か」を想定し、より広い目で構造化をくり返すなかでイレギュラーな要素が育ち、新しい価値が生まれてくるだろう。

 

記事:木田名奈子